大判例

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熊本地方裁判所八代支部 昭和28年(ワ)1号 判決

原告 佐々木ミト

被告 佐々木豊肥丸

一、主  文

被告が昭和二十一年二月二十四日熊本県八代郡椎原村二九番地佐々木覚太郎の選定家督相続人として為した右家督相続は無効なることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文通りの判決を求むると申立て、その請求の原因として、熊本県八代郡椎原村二九番地佐々木覚太郎は原告の亡夫で、同人は法定、指定いずれの相続もなくして昭和十五年七月二十二日死亡した。それで早晩家督相続人を選定すべきところ、荏苒これを放置してあつた。そこで右覚太郎の実弟である被告は何人かに唆かされて覚太郎の相続人に選定されたもののように作為し、その財産を処分しようと企み、生存配偶者である原告には何等図ることなく、昭和十八年三月中秘に、原告名義を以て、八代区裁判所に対し、右覚太郎の家督相続人選定の為親族会招集の手続を申請した。それで八代区裁判所昭和十八年(チ)第三三号を以て親族会員として、同村緒方含、村川友喜及び八代市萩原町村川島市の三名が選任され、同年四月九日八代郡椎原村二九番地右訴外亡覚太郎の住所に於て親族会を開催すべく決定された。然るに固より右親族会は指定の期日、場所に招集されたわけでもなく、被告を相続人として選定するようなことは全然なかつた、にも拘わらず、当時親族間において同村五九番地村川友喜の四女村川キヌ子を覚太郎の養女にすべく内々話が決つていたので、昭和二十一年二月被告はこのことを巧に利用し、村川キヌ子を相続人とするのに必要だからと嘘を申して右村川友喜、村川島市両名から印鑑を借り受け、親族会員の一人緒方含の印鑑はこれを偽造し、その頃被告を覚太郎の家督相続人に選定する旨の親族会決議書を作成した上各親族会員の名下に右借受けた印鑑並偽造した印鑑を勝手に押捺して右の親族会決議書一通を偽造した上、同月二十四日所轄椎原村役場において、係員にこれを提出して家督相続の届出をしたので、被告は戸籍簿上右覚太郎の選定家督相続人として登載さるるに至つた。然し乍ら右の相続届は前叙のように親族会の決議書を偽造してなされた無効のものであるから、家督相続の効力を生ずるに由ない。それでこれが無効確認を求むる為、本訴請求に及んだものであると陳述し、立証として甲第一号証(戸籍謄本)甲第二号証(除籍謄本)を各提出し、証人村川友喜、同村川島市、同坂田光雄の各訊問を求めた。

被告は原告請求通りの判決を求むると申立て、答弁として、原告主張の事実中訴外亡佐々木覚太郎と原告並被告の身分関係が原告主張の如くで、同訴外人が家督相続人なくして原告主張の頃死亡したことはいずれも事実相違ないが、被告は原告主張のように親族会の決議書を偽造して家督相続届をしたものではない。戸籍簿上被告が覚太郎の選定相続人として登載されていることは全然被告の関知しないところであると答え甲号各証の成立を認めた。

三、理  由

原告と被告並訴外亡佐々木覚太郎の身分関係が原告主張の如くで、同訴外人が法定、指定の家督相続人なくして原告主張の日死亡したことはいずれも双方間に争いがない。而して甲第一号証戸籍謄本によれば被告は原告主張の通り右覚太郎の選定家督相続人として登載されていることが明瞭である。原告代理人は右は親族会の決議書を偽造してなされた無効のものであると主張するので審究するに、甲第一号証戸籍謄本、甲第二号証除籍謄本の各記載と、証人村川友喜、村川島市、坂田光雄の各供述に当事者弁論の全趣旨とを綜合すれば、覚太郎の死亡後永らく家督相続人を選定することなく放任されていたが、昭和十八年三月頃に至り原告主張の如く八代区裁判所に対し原告名義を以て覚太郎の家督相続人選定の為、親族会招集の申請手続がなされ、原告主張の通り村川友喜、村川島市、緒方含の三名が親族会員として選任されて、同年四月九日被相続人の住所で親族会を開催すべく決定された。

然るに該親族会は指定の日時場所に集合されず、勿論何ごとの決議もなく、家督相続人選定の件は又々中絶して了つた。ところが、越えて昭和二十一年二月に至り何人かが、人のよい被告(被告は文盲で高齢且頗る世情に疎いものであることは証人坂田光雄の証言により明瞭である)を唆かし、その相続財産を処分させて利得しようと考え、予て覚太郎の生前より原告の実弟に当る同村五九番地村川友喜の四女キヌ子を養女とすることに話が決つていたので、これに乗じ、親族会員村川友喜、村川島市の両名に対してはキヌ子を相続人として入籍手続をするのに必要だからと嘘を云つてそれぞれ印鑑を借り受け、親族会員の一人緒方含の印鑑はこれを偽造し、これらを使用して昭和十八年四月九日八代郡椎原村二九番地亡覚太郎の住所で開催された親族会において、被告を覚太郎の相続人として選定された旨の親族会決議書を作成偽造した上、昭和二十一年二月二十四日所轄村役場において、これを係員に提出相続届をしたので、戸籍簿上被告は覚太郎の選定家督相続人として登載されたものであることを認むるに十分である。そうすると被告は覚太郎の家督相続人として選定されたことがないのにかかわらず、何人かの企みによつて、右のように偽造された親族会決議書を利用して相続届をなされたものであるから、之によつて家督相続の効力を生ずるに由ないものと謂わねばならない。ところで家督相続権は家督相続人の一身に専属する権利であるから、他人のなした家督相続の無効を主張してこれを争う正当の利益を有するものは、この一身専属権を侵害されたもの即ち正当の家督相続人に限られるわけである。而して配偶者は親族会の決議によつて選定されない限り家督相続人とはならないから、この点について主張立証のない本訴は訴の利益がないものとして排斥すべきもののように考えられるが、新民法附則第二十五条第二項には「新法施行前に家督相続が開始し、新法施行後に、旧法によれば家督相続人を選定すべき場合には、その相続に関しては新法を適用する」と規定するので、多少の異論は予想さるるが、本件親族会の決議が不存在である限り、更に家督相続人を選定すべき場合であるから、新法が適用さるることとなる。而して新民法においては家督相続の制度を廃止すると共に、配偶者は常に相続人と定めた(民法第八百九十条)から原告はその相続権を侵害されたことになり、訴の利益を有するに至つたものと解するのが相当である。

以上の次第で本件家督相続の無効確認を求むる原告の本訴は理由があり正当だからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決した。

(裁判官 島信行)

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